相続した土地に手紙が届いたとき、最初に目が止まるのは「いくら」という数字かもしれません。「このくらいで買いたいというお客様がいます」と書かれると、その金額が頭に残ります。
問題は、その金額を受け取ったとき、根拠があるかどうかがまだ分からないことです。先に出た数字が比較の起点になって、そこから話が動き出してしまいます。動き出してから「やっぱりその金額では」となっても、一度始まった話を止めるのは簡単ではありません。
先に出た金額が、その後の話の基準になる
相続の登記が終わると、驚くほど早く不動産会社からの手紙や電話が届き始めます。「うちのお客様で、この土地を購入したいという方がいらっしゃるのですが、お話できませんか」という文面が、実際によく届きます。
この文面は、買い手が実際にいなくても出せます。話が動き始めてから買い手を探せばよく、まとまらなければそれで終わり、という進め方ができるからです。これは悪意のある話ではなく、業界ではよくある流れです。
ここで気になるのが、根拠のないまま金額を先に出してくることがある、という点です。金額が出ると、親族を集めて話し合いが始まってしまうことがあります。「〇〇万円で買いたいという人がいる」という数字が場に出ると、それがその後の比較の基準になります。売るかどうかを決める前に、その金額を受け入れるかどうかの話になってしまいます。
「やっぱりその金額では」となっても、話はすでに動いています。親族の間で「早く決めたほうがいい」という空気になっていたり、業者との間で具体的なやりとりが始まっていたりすると、立ち止まるのが難しくなります。
根拠がある金額かどうか、確かめることができる
届いた金額が妥当かどうかは、別のところで確かめられます。
不動産査定(その物件を市場に出した場合、どのくらいの価格で売却できそうかを見立てるもの)は、売る相手を探すための価格です。どのように計算されたかを示す義務はなく、根拠を書面に残すものではありません。これに対し、不動産鑑定評価(不動産鑑定士の独占業務で、適正な価格を根拠とともに書面に残すもの)は、価格の判定過程まで記録に残ります。
私は不動産鑑定士として、土地の価格を判定する仕事をしています。相続の場面では、届いた金額がどのくらいの水準にあるのかを、別のところから確かめることができます。
鑑定評価書は、正式に出したあとで内容を差し替えることができません。だから私は、まず価格の水準がどのくらいになりそうかを、幅で先にお伝えします。その数字を見てから、鑑定評価まで進めるかどうかも含めて、ご相談者と顧問の税理士に決めていただきます。この段階では費用をいただきません。
概算の段階で「この価格だと難しいので、今回は見送ります」と言われたら、それで終わりでかまいません。決めていただいてから受けます。
提示額より先に、価格の水準を知っておく
先に価格の水準を知っておくことには、意味があります。
「急ぐお金と待てるお金を分ける。これは、土地の価値を数字で読めてはじめてできる整理です」というのが、私の考え方です。相続税の納税に必要なお金と、時間をかけて動かせるお金は、たいてい額が違います。どこを急いでどこを待てるかは、土地の価格の水準が分かってはじめて見えてきます。
先に概算を持っておくことで、業者から提示された金額を「高いのか、低いのか、妥当なのか」という目線で見られるようになります。何も持っていない状態で金額を出されると、それが唯一の手がかりになります。
私の仕事の受け方は、こういう順番です。まず概算を無料でお伝えする。価格の水準を幅でお示しする。その数字を見てもらってから、どうするかを決めてもらう。売る・貸す・持ち続けるという道を、同じ数字の上に並べて比べてから選んでいただけます。
土地はひとつずつ条件が違いますので、どの土地も同じようにうまくいくとは限りません。ただ、価格の水準を先に知っておくことは、どの場面でも判断の起点になります。
まず数字を持ってから、話に臨む
業者から金額を先に出されると、そこから話が動き始めます。この流れ自体は自然なことです。ただ、提示された金額に根拠があるかどうかを確かめないまま話が進むと、後から立ち止まりにくくなります。
先に価格の水準を知っておくことで、届いた金額を比べられる状態で話に臨めます。動く前に一度、正直な数字で見立てておくことには、大きな意味があります。
よくある質問
Q. 業者が先に金額を出してくる場合、なぜ根拠が分からないことがありますか?
業者が提示する金額は、正式な査定や鑑定評価ではなく、話を進めるための目安として出されることがあります。不動産の査定は、その物件を市場に出した場合の売却見込み価格を見立てるもので、根拠を書面に残す義務はありません。どのように計算されたかが示されないまま金額だけが場に出ると、それが比較の基準になってしまいます。根拠を確かめたい場合は、不動産鑑定士に相談することで、適正な価格の水準を書面で示してもらえます。
Q. 相続した土地の適正な価格は、どのように確かめられますか?
不動産鑑定評価を依頼することで、根拠のある価格を知ることができます。不動産鑑定士が物件を調査し、適正な価格を書面に残します。費用は1件あたり30万円から60万円程度になることが多く、100万円以上になることもあります。ただし正式な依頼の前に、まず価格の水準がどのくらいになりそうかを幅でお伝えする段階があります。この段階は無料で、その内容を見てから正式な依頼を判断していただけます。
Q. 不動産の無料査定と鑑定評価では、何が違いますか?
無料査定は、その物件を市場に出した場合にどのくらいの価格で売却できそうかを見立てるもので、売る相手を探すための価格です。根拠を書面に残すものではなく、費用もかかりません。一方、不動産鑑定評価は不動産鑑定士だけが行える業務で、適正な価格を根拠とともに書面に残します。税務や法的な手続きで価格の根拠が必要になる場面では、鑑定評価書が使われます。
Q. 業者から提示された金額に納得できない場合、どうすればよいですか?
別の不動産会社に査定を依頼するか、不動産鑑定士に相談して根拠のある価格の水準を確かめることができます。提示された金額と自分の感覚にずれがある場合でも、何が根拠になっているかを整理してから動くほうが、後から引き返しにくくなる状況を避けられます。税務上の判断が絡む場合は、顧問の税理士にも確認することをおすすめします。

