相続した工場跡地、あわてて全部売る前に

まとまった広さの土地は、まとめて売るのが早いと言われます。ただ、広い土地ほど、場所によって向いている使い道が違います。向いている使い道が違えば、買いたい相手も、その相手が出せる金額も変わります。工場をやめたあとの跡地でも、周辺環境によっては、場所によりその差が大きくでることもあります。

広い土地は、一枚の土地として見るだけでは足りない

工場跡地は、更地になった時点で買い手の顔ぶれが変わります。建物を建てて商売をしたい会社、区画に分けて住宅として売りたい会社、資材置き場として使いたい会社。求めているものが違えば、出せる金額も違います。

まとめて1件として売りに出すと、用途ごとの価格差が、一括の価格の中で見えにくくなります。買う側は、自分にとって使いにくい部分まで込みで値段をつけることになるからです。使いにくい部分の分だけ、全体の単価が下がります。

用途で切り分ける、とはどういうことか

用途で切り分けるとは、ひとつの土地を用途ごとに分けて、それぞれについて価格を見立てることです。全体をひとつの数字で見るのをやめて、分けた数字を並べる。そこで初めて、どこを急いで動かし、どこを残せるかが見えてきます。

実際にあった、こんなご相談

お父様が昔、小さな工場を営んでいた土地です。高齢でやめられたときに建物は取り壊し、更地のまま持っておられました。半年前にお父様が亡くなり、息子さん(60代)が相続されました。

ご自身は別のお仕事をされていて、この土地を使う予定はありません。相続税の納税期限も控えていて、この土地をどうすればいいのか、と顧問の税理士を通じてご相談をいただきました。広さは全て合わせておよそ900坪。一団のまとまった土地でした。

届いていた手紙は、ほとんどが一括の買い取り

手元には、不動産会社からの手紙が何通も届いていました。その多くは、土地をまとめて買い取りますという内容でした。

業者買取とは、不動産会社が自ら買い取る取引です。買い取った会社は、区画分譲(まとまった土地を複数の区画に分けて売り出すこと)など、商品化して売ることを前提にしています。測量や整備、売り出してから決まるまでにかかる費用と時間を見込むため、その分が買取価格に反映されます。だから一般の買主を探して売る場合より低くなることがあり、その代わりに早く決まります。

900坪を一括で買い取りに出せば、納税期限までの現金化は見込みやすくなります。ただそれだと、別の売り方であればより高い価格が見込めた部分まで、まとめて手放すことになりかねません。急ぐという条件だけで決めると、一括買取の金額だけで判断することになります。

分けて見たら、値段が二とおりに出た

私は名古屋の葵不動産で、土地や建物の価格を、その根拠とともに判定しています。売買の仲介もします。ただ、その前に必ず価格を判定します。売却ありきで価格を決めるのではなく、まずその不動産の価格を見立て、そのうえで売るか、貸すか、残すかを考えます。

この土地も、売り先を探す前に図面と現地を見ました。すると、店舗に適した部分と、住宅に適した部分に分けることができ、それぞれ売れる価格が異なることがわかりました。この土地では、道路に面した部分は店舗利用との相性がよく、奥まった部分は住宅利用が考えやすい形状でした。

そこで、こう見立てました。住宅に適した部分を売却し、店舗に適した部分は、賃貸も視野に入れてあわてずに検討する。先に住宅に適した部分を現金化することで、納税資金を確保できる見通しが立ちました。残した部分は、条件の合う相手が出てくるまで待てます。

一括で買い取りに出す用途で分けて動かす
納税資金の見通し立つ立つ
手元に残る土地残らない店舗に適した部分が残る
価格の決まり方使いにくい部分に引かれる部分ごとに値段がつく

納税に必要な分と、そうでない分では、動かす速さを変えられます。土地の全部を同じ日に手放さなければならない、と決まっているわけではありません。

貸すという道も、いちど検討する

売ることだけが答えではありません。店舗などに土地を貸せば、手放さずに毎月の収入を得る道もあります。

期限内に納税の現金をつくる必要があるときでも、貸す道がすぐに消えるわけではありません。事業用定期借地(事業用の建物を建てる目的で、期間を定めて土地を貸す契約)などでは、契約条件によって保証金などの一時金を受け取る場合があります。契約時の一時金の授受により、納税資金が賄えるケースもあります。ただし一時金は、返還の条件が契約ごとに決まります。毎月の賃料だけを見て、貸すのでは間に合わないと決めてしまうと、この道が先に消えます。

貸す判断は、賃料の高さだけで決めない

底地(建物が建っている土地を、土地の所有者の側から見た呼び方)は、同じ賃料が入っていても、上に建っているのが全国チェーンなのか、いつ閉じるか分からない店なのかで価値が変わります。借りている相手の信用力は、底地の評価にも影響します。

土地を貸す選択肢が有効になる場合もあります。ただし、賃料だけでなく、借主の信用力や契約条件まで確認しておく必要があります。だから貸した場合の数字も、賃料の額だけでなく、誰に貸すかまで含めて並べます。

今回は、貸した場合の数字も出したうえで、どの形にするかを決めていただきました。売却だけを先に決めてしまうと、この比べ方ができなくなります。

もちろん、土地はひとつずつ条件が違いますので、どの土地も同じようにうまくいくとは限りません。区画に分けるには測量や境界の立会いが要りますし、接道条件を満たせるかどうかなどによって、分割できるか、分割後にどう使えるかが変わります。分けないほうが早く高く決まる土地もあります。なお、相続税の計算や特例が使えるかどうかは税理士の領域です。税務上の取り扱いは、顧問の税理士にご確認ください。

同じ土地でも、用途が変われば値段が変わる

使い道ごとに分けて数字を出すと、急いで現金にする部分と、時間をかけて相手を選ぶ部分を、別々に決められます。手紙に書かれた一括の金額と比べるための目安も、そこで手に入ります。

私はもともと不動産鑑定士です。不動産の価格を、根拠をもって判定するのが仕事です。その土地が、どのような条件ならいくらと見られるのか、どう分ければ無理がないのかを、数字でお見せします。どう動くか、あるいは動かないかは、その数字を見てから決めていただければ十分です。

売る・貸すを決める前に、まず今の価格を確認するところからご相談ください。

まずはご相談ください

まだ決めていない段階でも構いません。その土地が今いくらで、どういう選び方があるかを、中立にお伝えします。

お電話でのご相談
052-950-7001

よくある質問

Q. 工場跡地は、住宅地より売りにくいですか?

売りにくいというより、買う相手が変わります。立地や用途地域によっては、店舗や事業用として使いたい会社が候補になることもあります。分けられる土地であれば、住宅として売れる部分が出てくることもあります。どういう使い道があるかを先に確かめると、声をかける相手が決まります。

Q. 相続した土地を分けて売ると、高くなりますか?

分ければ必ず高くなるわけではありません。区画に分けるには、測量や境界の立会い、道路に接する部分の確保が要ります。手間と費用がかかるぶん、ひとまとまりのまま売ったほうが早く決まる土地もあります。分ける場合と分けない場合の金額を並べて比べます。

Q. 更地のまま持ち続けると、どのくらい費用がかかりますか?

固定資産税と都市計画税が毎年かかります。建物のない土地は住宅用地の特例が使えないため、住宅が建っている土地より税額が高くなります。加えて、草刈りなどの管理費もかかります。具体的な税額は、所在地や評価額、自治体の税率などによって異なります。詳しくは市町村の担当窓口でご確認ください。

Q. 工場跡地を貸す場合、どんな相手が候補になりますか?

幹線道路に面していれば店舗、奥まっていれば資材置き場や倉庫が候補です。ただし賃料の額だけで決めません。同じ賃料でも、借りる相手の信用力によって土地の価値が変わるからです。貸したあとに土地がどう評価されるかまで含めて見ます。

Q. 相続した工場跡地は、どこに相談すればいいですか?

売り先を探す前に、その土地が今いくらなのかを確かめられる相手をおすすめします。私の場合は、まず無料で概算をお出しし、その数字を見てから依頼するかどうかを決めていただきます。根拠を書面に残す鑑定評価まで進む場合、1件あたりの鑑定報酬は、物件や依頼の目的によりますが、30万円から60万円程度になることが多いです。100万円以上になることもあります。

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